東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)263号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第二号証の一(本願発明の特許出願公開広報。以下「明細書」という。)及び同号証の二(昭和六二年八月一九日付け手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、左記のとおりと認められる(別紙第一図面参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本願発明は、合成樹脂製コアの両面にそれぞれ金属製外面シートを一体化させて成る複合パネルから、金属製外面シートを剥離させる方法に関する(手続補正書第二頁第一八行ないし第二〇行)。
合成樹脂製コアと金属製外面シートとから成る複合パネルは、屋根、カバー壁あるいは天井等に広く使用される。この複合パネルは、製造の間にも所要寸法に切断する際にも、切落とし部分として再使用不可能の切断片を生ずるが、この廃品切断片から構成材料を回収するためには、合成樹脂製コアから金属製外面シートを剥離する必要がある(明細書第一頁右下欄第一〇行ないし第二頁左上欄第三行)。
本願発明の目的は、合成樹脂製コアの両面にそれぞれ金属製外面シートを一体化して成る複合パネルから、金属製外面シートを簡単、かつ経済的に剥離させる方法を提供することにある(手続補正書第三頁第六行ないし第一一行)。
(二) 構成
前記目的を達成するため、本願発明はその要旨とする構成を採用したものである(手続補正書第三頁第一二行ないし第四頁第一五行)。
本願発明を行う装置は、別紙第一図面に表示されているとおり、等しい速度で反対方向に回転する二本の平行な円筒形の加熱ロール1、1´間にロール間隙2を形成し、ガスバーナ3、3´によつて加熱ロール1、1´の外面を直接加熱するものである。複合パネルAを加熱ロール1、1の間隙に係合し通過させると、圧力、剪断力及び熱の総合作用によつて、金属製外面シート4、4´は合成樹脂製コア5から剥離し、ロール間隙2から排出される(明細書第二頁左下欄第一五行ないし右下欄第八行)。
複合パネルAに作用する圧力はロール間隙2の設定によつて定まり、加熱ロール1、1´の温度及びロール間隙2通過速度と共に、広範囲に変化させ得るが、
ロール間隙‥複合パネルの厚さの三〇~八〇%
加熱ロール温度‥五〇~一五〇℃
複合パネル送り速度‥一~二〇m/min
の作業条件が好適である(同第二頁右上欄第一一行ないし第一七行)。
(三) 作用効果
本件発明の構成によれば、複合パネルAがロール間隙2を通るとき加熱ロール1、1´によつて十分加圧され、金属製外面シート4、4´と合成樹脂製コア5に圧縮や引張り等の変形が生ずる。ただし、金属製外面シート4、4´と合成樹脂製コア5は材料及び厚さを異にし、したがつて複合パネルAが加熱ロール1、1´によつて加圧されたときの両者の機械的な変形動作には差異があるから、界面に剪断力が発生する。このとき、界面には加熱ロール1、1´から熱が伝達されて加熱され、両者の結着力が減少するので、このように結着力が減少した界面に剪断力が作用することによつて、金属製外面シート4、4´が合成樹脂製コア5から剥離される。そして、複合パネルAが加熱ロール1、1´を通過するとき、金属製外面シート4、4´は、それぞれが接触する加熱ロール1、1´の周面に沿う方向に曲成されるから、張力を加えるまでもなく、自ら合成樹脂製コア5から離反する方向に排出されて、合成樹脂製コア5から分離する(手続補正書第四頁第一六行ないし第五頁第一九行)。
2 一方、成立に争いない甲第三号証によれば、引用例記載の発明は、合成樹脂製コアの両面に金属製外面シートを接着した複合パネルを、一対の加熱ロールのロール間隙を通過させて界面のみを溶融させ、同時に、合成樹脂製コア及び金属製外面シートにそれぞれ別途の張力を加えることによつて金属製外面シートを合成樹脂製コアから剥離した後、剥離した二枚の金属製外面シートをそれぞれ加熱ロールの周面に接触させながら引き取ることを要旨とする、合成樹脂製コアと金属製外面シートの分離回収方法であると認められる(別紙第二図面参照)。
そうすると、引用例記載の発明が、合成樹脂製コア及び金属製外面シートにそれぞれ別途の張力を加えることを剥離のための必須の要件としていることは明らかである。このことは、引用例記載の発明の実施例の説明における「熱可塑性樹脂板(合成樹脂製コア)5の界面が溶融した積層板(複合パネル)1は熱可塑性樹脂板5および金属薄板(金属製外面シート)4、4´に引張ロール6a、6a´、6b、6b´、6c、6c´にそれぞれ別々に引張張力一kg/inch幅を加えられ、熱可塑性樹脂板5、金属薄板4、4´に分離される。」(第二頁左下欄第一四行ないし第一九行)、及び「加熱ロールを通過してきた積層板の上下のアルミニウム薄板に幅一inch当り三kgの引張張力およびポリエチレン板に幅一inch当り一kgの引張張力を加え(中略)分離を行つた。」(第三頁左欄第一七行ないし右欄第三行)との記載によつても、疑いの余地がないところである。
3 以上のとおり、引用例には、金属製外面シートを剥離させる手段としては張力を加えることのみが強調して記載されているのであつて、加熱ロール自体によつて剥離を行うことは何ら記載されていないのみならず、合成樹脂製コア及び金属製外面シートにそれぞれ別途の張力を加えなくとも金属製外面シートが合成樹脂製コアから剥離し加熱ロールに沿つて曲成することが示唆されているともいえないし、それが当業者にとつて自明の事項であると認めるべき証拠もない。
しかるに、本願発明が、引用例記載の発明のように合成樹脂製コア及び金属製外面シートにそれぞれ別途の張力を加えなくとも、所望の作用効果が得られることは前記のとおりである。
そうすると、本願発明と引用例記載の発明とは、複合パネルを剥離するに当たり、合成樹脂製コア及び金属製外面シートにそれぞれ別途の張力を加えることを必須の要件とするか否かの点において著しく異なる構成及び作用効果を有するものといわなければならない。しかるに、審決は、引用例記載の発明において合成樹脂製コア及び金属製外面シートに加えられる張力を、単に剥離促進の観点のみから検討しているにすぎず、本願発明がこれを要件としないことを両者の基本的な相違点としてとらえることをせず、その進歩性を検討していないのであるから、その余の取消事由の存否について判断するまでもなく違法であつて、取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
互いに平行な二本の加熱ロールのロール間隙に複合パネルを通すことにより該複合パネルから外面シートを剥離させる方法において、
前記複合パネルは、二~八mmの厚さを有する合成樹脂のコアと、〇・三~〇・五mmの厚さを有し、かつ、前記コアの両面にそれぞれ一体化された金属製の外面シートとから成り、
前記加熱ロールを五〇~一五〇℃に加熱すると共に、前記加熱ロール間隙の大きさを前記複合パネルの厚さの三〇~八〇%に設定し、
前記二本の加熱ロールの少なくとも一方を動力駆動し、
前記複合パネルの両面の前記外面シートがそれぞれの対応する前記加熱ロールに接触するように、前記複合パネルを前記加熱ロール間隙に挿入し、
前記複合パネルを前記加熱ロールで加圧することにより、前記コアを変形させると共に、前記各外面シートを、該外面シートが接触する前記加熱ロールの周面に沿つてそれぞれ曲成し、同時に、前記加熱ロールによつて前記複合パネルの前記外面シートと前記コアとの境界面を加熱し、これにより前記外面シートを前期コアから剥離させることを特徴とする、複合パネルの外面シートを剥離させる方法(別紙第一図面参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙第一図面
<省略>
別紙第二図面
<省略>